作業の切り替えコスト:集中が戻るまでに失う時間
結論: 複数の作業を同時に進めることはできません。人がやっているのは高速な切り替えで、切り替えるたびに戻ってくるための時間が要ります。この時間を減らす鍵は、割り込みの発生源を分類して別々に扱うことです。 「ながら作業」で効率が上がっている感覚は、たしかにあります。ところが終わってみると、思ったほど進んでいない。この食い…
- 切り替えコストは何にかかっているか
- コストが大きくなる条件
- 割り込みを3つに分けて扱う
- 機械からの割り込みを先に削る
- まとめて処理する時間を先に置く
- 自分からの割り込みには紙を使う
- 切り替えの回数を設計する
結論: 複数の作業を同時に進めることはできません。人がやっているのは高速な切り替えで、切り替えるたびに戻ってくるための時間が要ります。この時間を減らす鍵は、割り込みの発生源を分類して別々に扱うことです。
「ながら作業」で効率が上がっている感覚は、たしかにあります。ところが終わってみると、思ったほど進んでいない。この食い違いは珍しいものではありません。
原因のひとつが切り替えコストです。作業を切り替えるたびに、頭のなかの設定を組み替える手間が発生します。この記事では、そのコストがどこから生まれ、どこを削れるのかを整理します。
切り替えコストは何にかかっているか
米国心理学会は、複数の作業を行き来する際に生じるコストについてMultitasking: Switching costsという解説を公開しています。
そこでは、作業を切り替えるときに生じる短い停滞が、人によっては生産的な時間の最大40パーセントに相当しうるという研究者Meyerの指摘が紹介されています。1回あたりの切り替えは1秒に満たないこともありますが、回数が増えれば無視できない量になるという整理です。
同じ解説では、コストが2つの成分に分かれることも示されています。ひとつは、これから取りかかる作業に頭の設定を合わせ直す手間。もうひとつは、直前の作業の設定が残って邪魔をする分です。
前者は準備によって減らせますが、後者は準備では消えません。ここが重要です。「気をつける」だけでは削れない部分があるということになります。
だからこそ、意志の力ではなく、切り替えの回数そのものを減らす設計が要ります。
コストが大きくなる条件
同じ回数の切り替えでも、状況によってコストは変わります。目安になる条件が2つあります。
1つめは作業の複雑さです。単純な作業どうしの往復より、考える作業をまたぐほうが戻りに時間がかかります。文章を書く途中で会計処理に移り、また文章に戻るような移動が典型です。
2つめは慣れです。先ほどの解説では、慣れない作業に切り替えるときより、慣れた作業に切り替えるときのほうが手こずる場合があることも紹介されています。直前の作業の設定が強く残るためだと説明されています。
ここから導けるのは、似ているようで違う作業の往復こそ危ないという見方です。メールとチャットを行き来する、複数の資料を交互に書く。こうした移動は軽く見えて、実際には設定の組み替えが起きています。
割り込みを3つに分けて扱う
切り替えの原因を一括りにすると対策が立ちません。発生源で3つに分けます。
- ●通知・バッジ・着信
- ●設定で止められる
- ●対策の費用対効果が最も高い
- ●声かけ・チャット・電話
- ●止められないが時間を寄せられる
- ●返す時間帯を先に決めておく
- ●思いつき検索・タブ開き
- ●最も気づきにくい
- ●書き留めて後回しにする
機械からの割り込みは、通知・バッジ・着信です。もっとも数が多く、そして唯一、設定だけで止められる種類でもあります。まずここから削ります。
人からの割り込みは、声かけやチャットです。これは止められませんが、返す時間を寄せることはできます。「すぐ返す」を諦めるのではなく、「返す時間を決める」に置き換えます。
自分からの割り込みがいちばん厄介です。作業中に思いついた検索、開いたままのタブ、ふと確認したくなった残高。外から来ないので、割り込みだと認識しにくいという特徴があります。
機械からの割り込みを先に削る
通知は、削る効果がもっとも大きく、かかる手間がもっとも小さい対象です。
アプリごとに許可を見直す具体的な手順はスマホアプリの通知許可を見直す:本当に必要な許可と削除後の変化にまとめてあります。バッジ表示だけを個別に落としたい場合はスマホ通知バッジを減らす:アプリ別に必要な通知だけ残す設定が参考になります。
判断の軸はひとつで十分です。「これが来たとき、いま手を止める価値があるか」。答えが「いいえ」なら通知を止めます。あとでまとめて見ればよいものだからです。
なお、スマホ利用そのものの量を把握したい場合は、総務省が毎年公表している情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査で、年代別の利用時間の統計を確認できます。自分の使い方を眺める際の比較材料になります。
開きっぱなしのタブも、視界に入るたびに小さな割り込みを生みます。整理の基準はブラウザのタブを閉じるべきタイミング:メモリ消費と生産性の実測値にあります。
まとめて処理する時間を先に置く
割り込みを減らすと、今度は「いつ返すのか」という問題が残ります。ここを決めないと、結局こまめに確認することになります。
そこで、返信や確認をまとめて処理する時間帯を先に確保します。1日に2回か3回で足ります。
- 午前の作業前に1回
- 昼の区切りで1回
- 終業前に1回
この形にすると、その他の時間は「返さなくてよい時間」になります。判断の回数が減ることが、実際の効きどころです。
メールの返信速度と考える時間の兼ね合いについてはメールの返信時間を意識する:即答と考える時間のバランスで別途扱っています。
自分からの割り込みには紙を使う
思いつきを止めるのは難しいので、逃がす先を用意する方針に切り替えます。
作業中に別のことを思いついたら、その場で処理せずに1行だけ書き留めます。紙でも、常時開いておくテキストファイルでもかまいません。
要点は、書いた時点で頭から降ろすことです。覚えておこうとする負荷そのものが、集中を削る側に回ります。
書き留めたものは、先ほど決めたまとめ処理の時間に見返します。多くは、そのときには不要になっています。
なお、切り替えコスト以外にも集中が続かない原因はあります。体調・環境・タスク設計のどこに当たっているかを切り分ける手順は集中できない原因を切り分ける:体調・環境・タスクの順で疑うにまとめました。
切り替えの回数を設計する
切り替えコストは、注意力の問題ではなく回数の問題です。減らせるのは意志ではなく設計のほうだと考えると、手を付ける順番がはっきりします。
まず通知を止める。次に返す時間をまとめる。最後に思いつきの逃がし先を作る。この順で効果が大きいので、上から試すのが早道です。
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